筆者は、上神谷のワークショップをとても楽しみにしていた。聞いたところでは、この地区の住民はワークショップを一度も経験したことがないそうだ。地区からどんな意見を飛び出すのか。筆者は、中山間地域の現状を知る上で大変良い機会になると考えた。
アンケートから都市部とは異なる課題が見てとれる。まず、525人の回答数(対象者数690人)のうち、8割が住み続けたいという気持ちを持っているのに目が留まった。地区の自慢は、「景観・自然環境」「地区の助け合い、人情、交流」が上位に占める。
課題は、獣害、田畑や山林の荒廃、空き店舗・空き地の増加、公共交通の脆弱性、高齢者の通院・買い物、児童数の低下、伝統行事の継承など多岐に挙げられている。ただし、アンケートの情報だけでは、一般的状況は把握できるが、少し乾燥的で、肌感覚でフィットしない。ワークショップは、自身の言葉を選び、話し合う。だから、活き活きとした議論に発展するのだ。場から得られる情報は貴重なのだ。
会場の塩城小学校体育館に着き、上神谷の将来を考える会の会長さんにあいさつすると、「集落では、ワークショップをしたことがないので、人が集まるのか、心配ですね」とおっしゃっていた。だが、当日は大人10人、子ども9人(小・中・高校生)が集まってくれた。ワークショップの内容は、(1)将来像の策定と(2)参加者自身ができることの二本柱である。コロナ禍のため1時間の短縮版ではあったが、会場の意見は熱がこもり、面白かった。
「イノシシも問題だけど、問題はサルが増えてきたな。一層、サルにあの山は任せてしまおうか。サルが増えたらまた降りてくるか」「岩山神社や温泉ももっと人が惹きつけられるんじゃなかろうか」「交通アクセスも、商業施設も作ってほしいが、福祉の面で助け合える場所が必要だろう」「荒廃地でヤギでも飼育してみよう」「お年寄りの得意分野を子どもたちに残していきたい」「高齢者の誕生日会に加えて、元気な人へのデイサービスを充実させたい」
会場を回ってみると、六つのテーブルから様々な意見が飛び交っていた。参加者は共通して、みんなが集まる機会と場の構築を積極的に評価していた。日曜日の午後6時から集まってくれる方々なのでやる気もあるのだろうが、上神谷地区の特色には、助け合いや結びつきの意識が非常に強いように感じられた。
会長さんと副会長さんにお話をうかがってみた。
「やっぱり、子どもたちの参加が一番うれしかったです。アンケートの内容も大切なのですが、まちづくりのことを、家の中でも話し合ってもらっていました。ワークショップを踏まえて、組織が立ち上がっていくプロセスができました。積極的な意見が出てきたんじゃないかなと思います。いきなり、みなさんの意識を変えていくことは難しいのですが、少しずつ地域の人の期待に応えられるように基礎固めをしたい」
「子どもたちの発表を聞いて、地域のことを考えてくれているんだなあと感じました。準備委員会の話し合いだけじゃなかったんですね。実際に声が聞けました。子どもたちをほめてあげたいです。継続的に参加してくれるのが一番だと思います」
上神谷地区のワークショップでは、「みんながひとつの家族のように助け合える」という言葉を何度か聞いた。筆者には、当たり一辺倒ではなく、心のこもった声を聞いて新鮮に感じられた。最後に、子どもたちの声を付記しておきたい。
「ワークショップはちょっと緊張しました。先週あるのを聞きました。僕は生活チームでしたから、運動できる場所やバスの本数を増やしてほしいと言いました。大人の意見を聞いて、僕らと似ているところも結構ありました。でも、山村広場の施設を変えてほしいとか、地域を再利用するという考え方は持っていなかったので、地域のことを現実的に見ているんだなあと思いました。割と楽しかったんで、次回、参加すると思います」(中学生)
「自分の生まれた地域に残って、働きたい気持ちになった。自分にどんなことができるかを思った」(高校生)
上神谷地区のワークショップの後、子どもたちと地区の将来、進学、就職など、ざっくばらんな話をした。彼らの言葉の中に“このまちと”という言葉が出てきたときに、新見市はまだまだ底力があると感じた。一方で、若者も地域と自分自身の将来について期待も不安もあるのがよく分かった。ワークショップは、会場での合意形成がどれほど、まちづくりに影響するのかで満足度が変わってくる。地域のみなさんも、子どもたちも、役場のみなさんもまちづくりに一生懸命なのだ。
◇
岩淵 泰(いわぶち・やすし) 岡山大地域総合研究センター(AGORA)准教授。都市と大学によるまちづくり活動に取り組む。熊本大学修了(博士:公共政策)。フランス・ボルドー政治学院留学。カリフォルニア大学バークレー校都市地域開発研究所客員研究員などを経て現職。1980年生まれ。
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